診断が難しいのも特徴です
ME/CFSは一般の保険診療で認められている血液検査、CT検査やMRI検査では異常がみられず、診断が難しいことも特徴です。また全国的に専門医が極めて少なく、適切な診断や治療を受ける機会がないまま、無理を重ねて重症化したり、孤立無援状態になっている患者さんも少なくありません。
病気の見きわめ
臨床診断基準
(厚生労働省研究班2017年)
6か月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)
- 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下
病前の職業、学業、社会生活、個人活動と比較して判断する。体質的というものではなく、明らかに新たに発生した状態である。過労によるものではなく休息によっても改善しない - 活動後の強い疲労・倦怠感
活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。 - 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
- 認知機能の障害 または 起立性調節障害
診断に必要な最低限の臨床検査
- 尿検査(試験紙法)
- 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
- 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
- CRP、赤沈
- 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、血清電解質、血糖)
- 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
- 心電図
- 胸部単純X線撮影
鑑別すべき主な疾患・病態
- 臓器不全
肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など - 慢性感染症
AIDS、B型肝炎、C型肝炎など - 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患、SLE、RA、シェーグレン症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など
- 神経系疾患
多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を引き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ頭部外傷など - 系統的治療を必要とする疾患
臓器・骨髄移植、がん化学療法、脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など - 内分泌・代謝疾患
糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全など - 原発性睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど - 精神疾患
双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など
共存を認める疾患・病態
- 機能性身体症候群(FSS)に含まれる疾患・病態
線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など - 身体表現性障害(DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)
- その他疾患・病態
起立性調節障害:体位性頻脈症候群(POTS)を含む若年者の不登校 - 合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)
疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)
※1:社会生活や労働ができない「月に数日」には土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む・
※2:健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する
※3:フルタイムの勤務は全くできない状態。ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。
※4:1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
※5:外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。
判断基準の一部を満たしていないけれど、原因不明の慢性疲労が認められる場合、特発性慢性疲労(Idiopathic Chronic Fatigue:ICF)と診断し、経過観察する。
小児ME/CFS
Q
子どももME/CFSに
なるのですか
小児特有の症状や
問題があります
子どもや10代の若い世代にもME/CFSは発症します。ほとんどの場合は成人と同じような症状ですが、自律神経失調症状が高頻度でみられ、特にめまいや立ちくらみなど起立性調節障害が目立つのが特徴です。また睡眠障害が関係していることが多く、生体リズムの破綻をきたしたことで、内分泌やエネルギー代謝、自律神経機能、認知機能の低下など高次脳機能の問題が生じると考えられています。治療では、まず睡眠覚醒リズムの改善と十分な休養をおこない、それでも改善が難しい場合、薬物治療を併用します。子どもや10代の場合、遅れた学習を取り戻すことや、スムーズに学校生活や集団生活に戻るサポートなども治療の一環として必要になります。
ご家族や学校の先生へ
ME/CFSを発症すると、他の児童や生徒のように授業や活動に取り組むことが難しくなりますが、周囲からは不登校や学習障害などと判断されがちで、患者さんは病気だけでなく、周囲の誤解や偏見に悩むこととなります。
若い世代の場合、特に迅速な治療やサポートが求められるため、診断基準では6か月を待たず、3か月以上で判断することとなっています。保護者や学校関係者の皆さんもこの病気についてよく理解し、患者さんの将来にとって最良の選択ができるように適切に行動してくださるようお願いします。
小児ME/CFS 国際基準
臨床的検討により説明困難な
持続的あるいは再発性の
3か月以上の疲労が
次のような条件を満たして続く
A
進行中の労作の結果ではない
B
安静によって実質的に軽減されない
C
結果として教育的・社会的な、および個人活動の以前のレベルに比べて相当な減少がある
D
少なくとも3か月の間、持続あるいは再発する
次のような症状が
過去3か月間において
同時並行的に認められる
A
階段を上がる、パソコンを使う、読書などの労作後倦怠感、労作後の疲労
B
疲労回復できない睡眠、睡眠量およびリズム(質)の障害、過眠型睡眠障害(頻回の昼寝を含む)や寝付き困難、早朝覚醒、昼夜逆転などの睡眠問題がある
C
疼痛
しばしば広範囲にわたる、および移動する疼痛(または不快感)。以下いずれかの中から、少なくとも1つの症状を有する
- 筋筋膜および/または関節疼痛
- 腹痛
- 頭痛
D
神経認知徴候
以下の中から少なくとも2つの症状を有する
- 記憶障害
- 問題点を絞り込む能力(焦点化)の低下
- 的確な単語を見つけ出すことが困難
- しばしば、何を言いたかったかについて忘れる
- 関心のなさ、思考の鈍麻、情報を思い出せない、一度に1つのものしか集中できない、良くないことが頭に浮かぶ、情報理解困難、思案の連続性を失う、数学または他の教育問題の困難性
E
その他のカテゴリ
以下の3つのカテゴリーのうち2つに、少なくとも1つの症状は有する
- 自律神経症状:神経性に引き起こされた低血圧、起立性調節障害、動悸、めまい、バランス消失、息切れ、立位でのふらつき
- 神経内分泌系症状:熱感と四肢冷感、微熱と著明な日内変動、発汗、寒さや暑さに対する耐性の低下、体重の著しい変化、食欲異常、ストレスによる症状悪化
- 免疫性症状:インフルエンザ様症状の繰り返し、非滲出性咽頭炎またはイガイガ感、繰り返す熱や発汗、リンパ節痛や腫脹、化学物質過敏症の新規発現
明確な説明ができないが疲労状態を示すものの、除外する必要のない疾患
1
精神医学的疾患
a 不登校
b 分離不安
c 不安障害
d 身体化障害
e 気分変調症
2
その他、診断検査で確立することができない症状により定義される状態
a 複数の食物あるいは化学物質に対する過敏症
b 線維筋痛症
3
その病態に対して適切な治療が存在し、その病態に関連している症状を緩和するための十分な治療を受けている状態
4
その病態が慢性徴候的な後遺症を残す前にしっかりとした治療を受けているもの
5
除外疾患の存在を強く示唆するには不十分である、かけ離れたあるいは不可解な身体所見・検査所見・画像所見の異常を示している病態